デング熱のコントロールに対する、Wolbachia感染蚊の有効性

Efficacy of Wolbachia-Infected Mosquito Deployments for the Control of Dengue


https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa2030243


デング熱のコントロールに対する、Wolbachia感染蚊の有効性

Background
Wolbachia pipientisを感染させたネッタイシマカは、野生型のネッタイシマカよりも、デングウイルスに感染しにくい

Methods
インドネシアジョクジャカルタにて、デング熱の予防目的に、Wolbachia(wMel株)感染ネッタイシマカを用いるクラスターランダム化試験(cluster randomized trial)をおこなった。
12の地域でWolbachia(wMel株)感染ネッタイシマカを導入し、導入を行わない12の地域とにランダマイズした。すべての地域で、通常通りの蚊対策をおこなった。介入の効果を判定するためにtest-negative design (診断陰性コントロール試験)を用いた。
導入後、それぞれの地域のプライマリ―クリニックを訪れた原因不明の発熱患者(3歳から45歳)を対象にデングに感染しているかどうかを検査した。
プライマリエンドポイントはデング感染で、すべての重症度とすべてのウイルスのセロタイプを含む。

result
介入地域において、Wolbachia(wMel株)感染ネッタイシマカを放した後、8144人の参加者が登録された。3721人が介入地域に、4423人がコントロール地域に住んでいた。intention-to-treat解析にて、介入地域の2905人中67人がデング熱に感染した。コントロールは3401人中、318人が感染した。(aggregate odds ratio for VCD, 0.23; 95% confidence interval [CI], 0.15 to 0.35;P = 0.004).
介入による予防効果は77.1% (95% CI, 65.3 to84.9)で、4つのデングのセロタイプに関わらず同様であった。
介入地域ではデングによる入院も減っており、2905人中13人で。コントロール地域の3401人中102人よりも少なかった。(protective efficacy, 86.2%; 95% CI, 66.2 to 94.3).

conclusion
Wolbachia(wMel株)感染ネッタイシマカの導入は、デング感染を減少させるのに有効であり、入院も抑えることができた。



レプトスピラ感染症  Leptospirosis: clinical aspects

2022年に、Clinical medicine Journal に掲載された、レプトスピラ感染症についてのレビューです。レプトスピラ感染症は全世界で発生していますが、特に熱帯・亜熱帯地域での発生が多いです。汚染された川や土壌を介して感染が成立します。日本でも、水辺での川遊び、レジャーなどで感染が起こっています。

 

筆者はスリランカコロンボ大学医学部のSenaka Rajapakses教授です。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35078790/


Leptospirosis は世界で最も重要な人獣共通感染症であり、
全世界で毎年100万人が感染し、58900人が亡くなっている
1886年にAdolph Weilがこの病気を黄疸、脾腫、腎不全、結膜炎を特徴とする熱性疾患として記載し、Weil's病と名付けられた
日本では秋病みとして知られている。

Leptospiraeは長径6-20μm、直径0.1μmで尾側に鉤がある。
21種ある内の9種が病原性があり、5種は中等度の病原性である。
7割のLeptospira症は熱帯地域で発生しており、特に東南アジア、東サブサハラカリブ海オセアニアに多い。
家畜を扱う農夫、職場でげっ歯類に接する人、衛生状況が低い地域に住む人々がリスクである。また、ウオータースポーツでの感染もある。
世界的には、発症率はほぼ同じであるが、いくつかの国では、洪水などの自然災害の後で大きなアウトブレークが起こっている。

主な感染経路はネズミのし尿に汚染された水に、怪我の傷や粘膜からの接触がある。
Leptospirosisのコントロールは困難で、その理由は2つある。
ひとつはレプトスピラは様々な動物が宿主となるが、宿主に症状を起こさずに、腎臓に長く留まり、尿に排菌していること。
二つ目は野生の動物が宿主であり、家畜に常に再感染を引き起こしている。

症状は軽度から重度までさまざまで、自然に治る急性の発熱から多臓器不全のような重篤な状態まである。
臨床上の特徴は、デングやリケッチア、マラリア、敗血症などの熱帯地域で見られるほかの疾患に似ている。
古典的な症状は、結膜充血、黄疸、急性腎障害のWeil's syndromeである。肺出血は最近死因として重要視されている。
潜伏期間は2-20日間(通常7-12日間)で、レプトスピラ血症の発熱期とその後の免疫応答期の二相性が見られる。
レプトスピラ血症期(3日目から9日目)には、非特異的な発熱、悪寒、筋肉痛(腓腹筋)があり、結膜充血が特徴的な所見である。
免疫応答期には、IgMが血中に現れ、尿中から菌体が分離される。
臓器障害の程度と菌体の毒性で重篤な症状が現れる
レプトスピラによる組織の直接障害と菌体に対する免疫反応が、組織および臓器障害の原因と考えられている。
黄疸は特徴的な症状であるが、死因は急性腎障害、心筋症、肺出血によるものが多い。

診断は、感染リスクへの暴露歴と臨床症状が主である
リスクへの暴露後に、頭痛、筋肉痛、黄疸、結膜充血、乏尿、出血などの症状があると、レプトスピラ症を疑う。

診断は、血液培養による菌体の検出がゴールドスタンダードであるが、発症後1週間以内に限られる。それ以降は尿中からの菌体の分離ができる。
その他PCR、血清抗体などである。
血清抗体は発症後6-10日で現れ、3-4週間がピークである。顕微鏡下凝集試験(MAT)

ERCP後膵炎を予防するための、NSAIDs +大量輸液と NSAIDsのみ投与の比較試験(FLUYT)

 
ERCP後膵炎の予防にはNSAIDs投与が有効とされている。また、大量補液も合併症予防に有効とされている。
NSAIDs投与+大量捕液の効果について検討。
 
方法
オランダの22の病院でのオープンラベルRCT
対象:18歳から85歳までのERCP後膵炎の中~高リスク患者
 
大量補液群:NSAIDs座薬+大量捕液;ERCP開始60分以内に20ml/kgのリンゲル液を投与し、その後8時間以内に3ml/kg/h投与
コントロール群:NSAIDs座薬+24時間以内に3Lの補液(1時間に1-5ml/kgを超えない)
ERCP後膵炎 Cotton criteriaにて評価
膵炎の程度はCotton criteriaと revised Atlanta criteriaにて評価
 
結果
826人の患者がエントリー
大量補液群  338人中 30人(8%)に膵炎発症
コントロール群 425人中 39人(9%)
でどちらの群にも差が認められなかった。(relative risk 0·84, 95% CI 0·53–1·33, p=0·53).
補液に伴う合併症、膵炎以外の合併症、30日後の死亡率についても変化はなかった。
膵管ステント留置は施行医の裁量に任されていたが、両群間で差がなかった。
 
NSAIDs座薬+大量補液はNSAIDs座薬のみと較べて、ERCP後膵炎の発症を減らさなかった。

Preventing Digital Overdiagnosis デジタル機器による過剰診断を防ぐ

 
デジタル機器やマシーンラーニングが人々の生活に急速に導入されており、症状が出る前に病気を発見する機会が増えている。
これまで、通常行われてきた検査によって、病気の早期発見ができ、患者のアウトカムを改善し、医療費をへらすことができた。特に、がん、心臓病、生活習慣病の早期発見のためのプログラムを実施する推奨もある。
一方早期発見によって、患者にメリットがもたらされなければ、却って害になる。
 
これまでも、疾患のスクリーニングのために行われた検査によって、過剰診断の弊害が指摘されてきた。
甲状腺がんADHDなどはそのいい例であり、前立腺がんや乳がんもこれに当てはまる。
特に前立腺がんは。PSA検査による過剰診断が警鐘されている。しかも、25万人の患者の臨床試験を20年間かけて、やっと過剰診断と分かった。今のデジタル技術によるスクリーニングの進歩のスピードには、このような臨床試験がとても追いつけるものではない。
一方このような、技術の進歩によって、電子カルテ上で、患者のデータをあつめることができれば、病気と診断したなかには、診断しても患者には有益でなかったとわかるものもあるであろう。
 
Preventing Digital Overdiagnosis

軽度肥満の成人に対し、睡眠時間延長が食事摂取量に及ぼす効果

 
 
短時間睡眠は肥満のリスクファクターであるが、睡眠を長くすることでそのリスクが軽減できるだろうか
 
 
対象 BMI 25.0 ~ 29.9 軽度肥満の成人 睡眠時間が6.5時間以下
 

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方法
通常通りの睡眠時間を2週間続けてもらい、その後睡眠時間を8.5時間に延長した(睡眠延長)群とこれまでの睡眠を継続する(コントロール)群とにランダマイズ。2週間後のエネルギー摂取量、体重の変化を評価。
エネルギー摂取量は、日々の体重変化と体脂肪などの体内のエネルギー貯蔵量の変化から計算
睡眠時間はactigraphy(睡眠を記録する、時計型の加速度センサー)で記録
 
結果
80人(男性41人、女性39人)を解析。
介入群で睡眠時間は1.2時間延長した。
睡眠延長群はコントロールと比較して、2週間で270kcal エネルギー摂取量が低下した。(−270.4 kcal/d; 95% CI, −393.4 to −147.4 kcal/d; P < .001).

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睡眠時間の延長は、エネルギー摂取量と逆相関があった。
 
また、睡眠時間延長群はコントロール群と比較して、2週間で0.87kgと有意に体重が減少した。(−0.87 kg; 95% CI, −1.39 to −0.35kg; P = .001).
 
考察
2週間で270kcal エネルギー摂取量が低下したが、これは3年間では12kgの体重減少となるであろう
また睡眠延長群では、十分な睡眠により、日中がより元気になり、気分も優れていた。
今後は長期間の観察研究が必要であろう。

世界の胃癌発症率と死亡率、1980年から2018年

 
世界の胃癌発症率と死亡率、1980年から2018年
 
 
目的
世界のそれぞれの国の、胃がんの発症率死亡率、および最近の動向。また若年者で胃がんの発症が増えているのかどうかを、検証する。
 
方法
2018年のGLOBOCAN 、がん登録その他のdatabase (1980年〜2018年)から48か国を抽出。胃がんの発症率、死亡率に関して、性別及び年齢を40歳以上と以下に分けて解析した。
 
結果:2018年の胃癌の新規発症数は 世界で1,033,701人、胃癌関連死は782,685人。
 
48カ国の内、29の国で胃癌の発症数が減少し、41の国で関連死が減っていた。東アジアで胃癌の累積危険度が高かった。また40歳以下で見ると、スウェーデンエクアドル、イギリスで発症数が増えていた。
 
 
考察
 
ほとんどの国で胃癌の発症率が減っていた。
衛生状況の改善や除菌療法によるピロリ菌感染の減少、塩分摂取の減少、喫煙率の減少などが原因。
 
一方、いくつかの国で40歳以下の発症が増えていた。
スウェーデンでは、噴門部癌の発症が増えており、肥満の増加とGERDの増加が原因と考えられる。